組織を活かすために管理する/管理しない

政治と経済

社会人の仕事は一部のクリエイティブなフリーランスなどを除いてチームで仕事をしなければなりませんが、そのチームのマネジメント手法として「管理する」「管理しない」という真逆のアプローチをそれぞれ推奨する書籍が沢山ありまして、私も混乱してるのですが皆さんにそれをシェアして少しディスカッションもしてみたくて、こちらに書いておきます。

管理するアプローチ

これは誰でも経験があると思います。恐らく中学校の部活の先輩後輩の関係のあたりからずっとお馴染みの、上意下達・上司絶対の組織のマネジメントです。軍隊とか民主主義だと立ちゆかない組織ではこれしか方法がなさそうです。自分のやるべきコトというのは予め決められていて上から流れてきてその通りにするということが大前提なので、ほとんど自分で考える余地はなく、金太郎飴的な仕事を一定の品質で淡々とこなす、こなせば売上になるというようなごく工業的なベルトコンベアなビジネスモデルだと非常にうまくワークします。

ところが、皆さんも思うところだと思いますが、この「管理する」というアプローチについて管理する方にいたとしても管理される側にいたとしてもこれと関わるにあたってあまり快適なイメージを持っている人はいないと思います。Ennisも普通に苦痛です(笑)

管理する仕組みには兵卒と将校という少数:多数の管理:被管理の仕組みが必要であるために意思決定の構造はどうしてもピラミッド型になります。一見、これはこれで盤石に見えるのですが(ピラミッドは大きくて立派な建造物です)ところがどっこい、このピラミッド構造として最大最強の組織のはずの米軍は、ろくな組織構造を持たないタリバンやISといったグループに対してここ20年ほどもずっと手を焼いています。この辺りの矛盾については、この本「ヒトデはクモより何故強い?」に詳しい。

ずっと「これが最適で最強」と思われていたピラミッド型の管理スキームというのは、21世紀に入ってどうも機能不全を起こしているようです。

管理しないアプローチ

目標を定め、それを分解して人に割り当て、KPIとスケジュールを決めて開発し、部分部分を完璧にして組み上げれば完璧な全体が完成する、というのはNASAでも格言のように扱われる管理手法ですが、ここに当たって真逆のアプローチが生まれてそれで上手く行くケースがあるというのが不思議なところです。

岐阜県にある未来工業という会社、「社員が世界一幸せな会社」としてテレビなどでも取り上げられたことのある会社で、この会社の創業者である山田昭男さんの本はEnnisも何冊も読ませて頂いています。

「上意下達のやらされ仕事で自分に何の創意工夫の裁量も無かったら、仕事が面白い訳がない」「ホウレンソウ禁止」「ズル休み推奨」「どんなに頑張ってくれたとしても、未来工業のビジネスモデルでは払える給料に限界がある。それならば、休暇をなるべく多く与えるのと、1日の労働時間をできるだけ短くするということで報いるしかない」「目標管理制度は無駄。人が人を評価するのには限界があり、どうしても主観的なものが入り込む。それならば、一律に年功序列にして評価なんてモノもやめた方が良く、それでいて未来工業は創業以来ずっと増収増益で来ている」

こんな具合のことが沢山語られています。管理というのは人に対する不信をまさに形にしたものであり、それは性悪説的なアプローチの最たるものだと思うのですが、それの真逆をいって「信じて、任せる」ということを貫くことで上手く行く会社、あるいはビジネスモデルというのもあるという実例です。

アメリカでしたか、確か役員から末端の従業員まで年収を700万円で固定して一切の評価やら成果主義的案仕組みを排したという企業がべらぼうな結果を出しているとかの記事を読んだことがありますが、これと同じようなイメージを受けます。

心理学でもどうやら「管理しない」方を推奨する流れがある

管理の仕組みは、アメと鞭、信賞必罰の制度と表裏一体です。そういう仕組みがあってこそチームをまとめ上げて大きな成果を上げることができるという信念でもって世界のありとあらゆるグループは動かされてきたのですが、近年の研究で人間のモチベーションというのはアメと鞭で動かせるほど単純ではないということも分かっています。

チンパンジーに対して、智慧の輪を与えてグループを2つに分ける。智慧の輪を解くとエサが貰えるチームと、貰えないチームに分けて、どちらが智慧の輪を解く技術が先に向上するかという実験を行ったのです。結果は誰の目にも自明で、エサを貰えるチームが早いに決まっていると思われたが結果は逆でした。エサを貰えるチームは、智慧の輪を解く行為は単純な「エサを貰うための手段」に成り下がり、それ以上のものにはなりませんでした。ところが、何も貰えないチームは智慧の輪を解く行為自体に面白味を感じ、より早く解くといったことに智慧を巡らすようになりいつまでも智慧の輪で遊んでいたそうです。

つまり、下手に「アメと鞭」の仕組みで管理しようとするとパフォーマンスが落ちるというケースがあるということ。チンパンジーでこれですから、もっと複雑な利害で動く人間は推して知るべし、ということです。人を束ねる立場の人は、こういうところをひたすら学ばないとなりませんね。

従業員が1000人を超えるような大企業で通用するのか

ただ1つ懸念点はあります。「管理しない」手法でもって上手く行ったという事例で出てくる組織なりチームなりというもののサイズが、世間一般でいうところの「大企業」といわれるものとは比べものにならないほど小さなサイズ、大きくてもせいぜい100人程度、大成功の事例として出てくるのが4-50人というサイズのチームなのです。

確かキャズム理論の本の中に組織論の話が雑談として出ていて、「無理に管理せず、しかしどうにかチームの全員がチームとしての目標を共有できていてそれとなく皆がまとまってうまく動いて結果が出るというチームの人数」というのがたしか103だったか113だったかというのが経験的に分かっているため、組織が大きくなってその人数に達しそうになったら分社化する、みたいな話がありました。それを超える人数になるとどういうわけか上手く行かなくなると言う。

コレについては、大企業にも若くてアタマの柔軟な経営者が出てきて実証してみて貰うのを待つばかりです。

まとめ

まるで「管理しない」というやり方でもってうまく行っちゃう会社とビジネスモデルがあるのは事実です。しかし日本で例えば2000年よりも前の上場基準で東証1部に上場しているようないわゆる従業員1000人、10000人といった大企業の類いでこれが通用するかどうかというところは、実証的な事例を集めて見てみないと何とも、というところです。

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