減価する穀物貨幣と、仮想通貨(暗号資産)

政治と経済

かつてのエジプト文明の反映をもたらした「穀物の預かり証」という貨幣と、最先端のIT技術である仮想通過(暗号資産)がなんだかドッキングできるのではないかと思ったのでこちらに書いておきます。

穀物の預かり証

古代エジプト(紀元前3000年~30年までのほぼ3000年間、ナイル川の流域に栄えたとされる文明)では、通貨として穀物の預かり証が使われていました。これは、農民の方々が作った作物を国の神官のところにもっていき、倉庫に収められた量を証明するものだったそうです。作物の量=それを食べて生きていける期間といった裏付けとなる価値があるため、この預かり証を市場にもっていくことで色々なモノやサービスと交換できたのだそうです。

減価する貨幣

ところが、当時のエジプトはどうやらとても高温多湿の熱帯雨林気候のようなところで、今のように冷蔵庫などがあったわけではないため預かった穀物がある期間を経るとカビが生えたりネズミにくわれたりという事象で一定の割合で「食えない」代物になっていくということがありました。つまり、預かり証の根拠である作物の量というのは時間とともに減っていくので、預かり証の価値も減っていくという仕組みになっていました。つまり、現代に生きている我々にすると想像がつきづらいのですが、「マイナスの利子」が付いているというのと意味的には同じで、自分の手元にため込んでいるとどんどん価値が減っていくということになります。

そんな性質があるので、あまり手元に置いてくと損をしてしまうので、預かり証を得たらなるべく早くに市場にもっていってモノやサービスと交換してしまう、という風習があったのだそうです。貨幣というのはその本分として「モノやサービスの交換の媒体として働く」ためにありますので、この「マイナスの利子」の仕組みによって「ただひたすら貯めこむ」というインセンティブを削いでしまうことでその本来の役目を果たせることになります。

イサカアワーの挫折

この「減価する貨幣」に着想を得た通貨がアメリカの地方都市に存在します。イサカという都市で使われている「イサカアワー」という地方通貨です。券面の裏に52週間分のスタンプを押す欄があり、使おうとしているそのタイミングでの週の欄までスタンプが押されていないと通貨としての力を持ちません。

そのスタンプはドルを払う、ボランティア活動に参加するなどの方法で押してもらえるのですが、これも「イサカアワーはさっさと使う」というインセンティブとして働くので、ため込むということが難しい。このイサカアワーですが、サブプライム危機などが起きた際にアメリカも全国的に景気後退の波にのまれましたが、イサカ市はこのイサカアワーによる独自の地域通貨の経済圏が出来上がっていてこれだけで生活することも可能という状態だったために、特段の経済的な問題に見舞われなかったという事実があるそうです。

ただ、このように素晴らしい性質を持つイサカアワーなのですが、調べてみたところ当のイサカ市では現在、かなり廃れてしまっているのだそうです。イサカアワーでは家賃や税金までもが払えるわけでないというところが不便であるところ、また使う側も「なるべく買えるもののバラエティに富んだ場所」に出向いて使うために人気のお店にばかりこのイサカアワーが貯まってしまうという現象に見舞われたそうで、「この通貨も理想的なものではない」という認識に皆さん、至ってしまったようです。

減価する仮想通貨

「定期的に減価する」というところの仕組みを、穀物貨幣もイサカアワーも持っているのですが、その仕組みは至極アナログなものです。この煩雑さというのが利便性という観点で現状の通貨だったりキャッシュレスな電子決済などに押されて廃れてしまったというのも一因としてありそうな気がします。

仮想通過にはブロックチェーンという技術が使われており、この大きな特性というのは「改ざんが不可能であること」です。別にお米を担保に使うなどの必要はないと思うのですが、ブロックチェーンの技術を使って発行された日付と、どこで使われたか(地方通貨としての機能を発揮するために位置情報も重要)、その時点でいくらの価値を担保するのか、といった情報を保持してスマホで使える決済手段のようなものに仕立てたら、何か素敵なものが完成しそうな気がしています。

まとめ

現代版の穀物貨幣は、もっとも進んでいるといわれたアメリカのイサカ市においても廃れてしまいました。最近とみに流行ってきたキャッシュレスバーコード決済のような仕組みとブロックチェーン、そして定期的な減価の仕組みをアドインした通貨のようなものが作れたら、なんだかとってもハッピーなことが起きそうな気がしています。

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